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車 ボディーコーティングをはじめよう。

元ディーラー社長経験者でつくるOB会にぜひ出席したいと言いたし、心配した家族がつき添って上京した。
懐かしい顔ぶれに出合ったN・Kの顔からも笑顔がこぼれっぱなしであったという。
ところが彼は、まわりにいる者をつかまえ、「あんたは興銀時代はどこの支店長をしていたっけ?」片っ端から同じ質問をくりかえしたというのだ。
その中には興銀出身者がいても一人か二人のはずだ。
つまりN・Kは日産グループのOB会を興銀のOB会ととり違えて出席しているのである。
あれほど日産車の販売に半生をかけた男でも、身体の中にはやはり興銀の血が流れているのかと、つい考えさせられるものがあった。
もはやN・Kにむかって銀行界が暴風雨で荒れ狂い、まして興銀が「みずほグループの一員」だなどと説明しても、それを理解させるには骨が折れる話になるだろう。
自動車のお祭りに冷水をかけたNRPゴーンが日産の副社長として着任後すぐ、社内にCFTとよばれるチームが社内に結成された。
「クロスーフアンクショナルーチーム」の略である。
これは開発、企画、生産、販売、人事、経理、購買、海外部門などの各主要部門から抜擢された比較的若手中心の気鋭の社員が、縦割り組織の力べを取り払って問題点を洗い出し、会社を復活させるためには「何をどうするか」、それを柔軟な発想で討議し合ってまとめようというチームである。
侃々誇々の議論は夜おそくまで毎日のように続けられた。
「これをやったら、はたしてどうなるか」ではなく、「これをやらなければ日産の復活はあり得ないのだ」という強い気迫をこめて討議はなされたという。
チームの中に二股膏薬のような人間がいたら、すぐにはじき出されてしまう雰囲気であったと聞く。
こうして組織を横断的に跨いで討議された結果でき上がったのが95ページに揚げたNRP(日産リバイバループラン)であり、最終的にはゴーンがGOサインを出した。
その内容が公表されたのが九九年十月十八日であり、二年に一度行われるクルマの祭典、東京モ1ターショーの五日まえであった。
「モーターショーを盛り上げて、業界みんなで販売不振を吹きとばそうというだいじな時期に、まるで冷水をかけられたような感じだ」そういう意味のコメントを語ったのは本田の社長吉野浩行である。
NRPの内容については各界からさまざまな感想が聞かれたが、主なものを拾ってみよう。
「これだけ数字が多いと、とても難しいのではないか」と、これはトヨタの奥田会長の弁である。
「何よりもむごい。
とても日本人にはできない内容だ」このような声も多かった。
とくに業界関係者の多数がそう洩らした。
「そんな無理なことをしても、日産とルノーのどちらかが先にキレてしまうだろう」海外のジャーナリストの中にはそこまで言い切った者もいた。
業界再編の嵐が吹き荒れているさ中、しかも東京モーターショーの直前ということもあり、世界じゅうから大物の自動車人たちが東京に集まった。
大メーカーのトップのほとんどが幕張の会場を訪れ、そこを交流と情報収集の場として駆け回っていた。
ゴーンが数日まえ、世界にむけて公約した衝撃的内容のNRPも当然のように話題にのぼった。
各社の華やかなディスプレーの中で、なんとなく日産車展示コーナーだけが一抹の寂寥感を漂わせているように思われたのは、NRPが発表された直後であったせいかもしれない。
多くの人が日産コーナーの前を素通りしているように思われてならなかった。
そんな中で、一般公開に先がけて行われる特別招待日に、日産車展示場の前で足を釘づけにし、食い入るように眺めて動かない一人の老人の姿があった。
その風格からにじむものに一瞥する人はいても、彼がアメリカで自動車殿堂入りをしたミスターKこと片山豊であるのを知る人は、ごく限られたものだけであった。
プロの企業改革家ゴーンの哲学NRPの衝撃的ともいえる目標数字に対し、懐疑的な目で見たものはトヨタの奥田会長だけではない。
十人中九人までが信じようとしなかったと言ってよかろう。
「日産は日本の製造業を代表する会社なんだ。
国柄がまるで異なるフランスならやってもよいが、日本では受け入れられないことだってあるだろう。
そもそも目標が未達に終わるようなことになれば日産を去るとゴーンは言うが、帰る場所のある彼はよくても、そのあとの日産はどうなるんだ」やりたい放題のことをやっておいて、やっぱり駄目だったと投げ出されたのではかなわないと、そういう声が聞かれたこともあった。
そこまで言われるとゴーンとしても黙って聞き流すわけにはいかない。
彼は自らが言うように、本当のところは瞬間湯沸かし器のように短気な性格なのである。
ただ、ゴーンが凡人でないところは、たとえ腹が立っても「良い話よりは悪い話に耳を傾けることが大切だ」と、自分にしっかり言い聞かせている点だ。
そして短気な性格を強昧として経営に生かしていることだ。
「今の時代は経営にスピードが求められている。
そしてリーダーは単純明快に指示をしなければいけない」そう言うゴーンはせっかちでもある。
モタモタすることがいちばん性に合わないみたいだ。
場合によっては機関銃のように、矢継ぎ早に指示がでてくるという。
しかし指示の仕方は明快であり的確だと大方の社員が認めている。
だから日がたつにつれ社内にゴーン親派がふえているのは、なんといっても彼が言行一致を貫いているからだろう。
セブンーイレブンのあだ名のとおり、分刻みのスケジュールをこなしながら、それでいて現場やディ上フーにも顔を出し、ひとりでも多くの部下と接しようと心がけている。
メーカー直営ディ土フーの大幹部に、ゴーンの日産になって何かどう変わったのかを尋ねてみた。
すると、よどむことなく次のような言葉が返ってきた。
「まずスピード経営になったことです。
それとグループの方針がキッチリと明快に伝わるようになったことです。
OKとNOがはっきりしてきました。
オーバーなようだけれど、今は本社の経営レベルの事柄が我々レベルにまで流れてくると思われるほど風通しがよくなりつつあるな、とそんな感じさえ抱いています。
海図のない航海から、進む方向性がはっきり見える船団に変わりつつあるというのを実感します」この幹部の言葉が大方の意見だとするなら、今の日産は間違いなく良い方向へ舵を切り変えているとみてよい。
「なにしろゴーン社長は自ら先頭に立って行動しますから……迫力がちがいますよ」彼はこうもつけ加えた。
「日産は本社の人がエラすぎる」かつてはそう言われたものだが、ゴーン体制になってからは嘘のように変わっている。
根まわし、調整という日本型経営はむしろ仕事が複雑になり、意志決定までに時間がかかるだけでなく、計画目標そのものまでがボヤけることがある。
そうなると未達に終わった場合でも、言い訳が許される逃げ道まで用意されてしまう。
結果、責任のなすり合いが始まったり、「ま、仕方ないか」と反省も後悔もしないダラけたムードが組織全体を蝕んでいくことになる。
「トップはしっかりしたビジョンを示し、どんな雑言を浴びても曲げないことだ。
そりゃ人間だから間違えることもある。
もし間違いに気づいたら、いち早く修正することにあらゆる努力を払うことかだいじだ。
私もしばしば間違うことがあるけれど、けっして逃げ道をさがすようなことはしない」ゴーンは大胆なスピード改革について質問されるとこう答えている。

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